2010-02-20

最初の「アメリカ人」はオーストラリア・アボリジニであるか?

18日の飲み会で、同僚のWさんから、BBCの番組で、最初の「アメリカ人」がオーストラリア・アボリジニだ、という説得的なドキュメンタリーをやっていたよ、と聞いた。つまりは、アジア人が1万年以上前にベーリング海峡をわたったり、あるいは、コロンブスより前、ヨーロッパ中世にバイキングが北米に到達をしたといったものよりもっと前に、アメリカ大陸にやってきたのはオーストラリア・アボリジニで、その証拠があるというのだ。

それで、ネットで調べてみた。WさんのいうBBCの番組というのは、1999年の「First Americans were Australian」らしいことがわかった。以下のリンクは、その番組予告のBBC Online Newsである。英国での放送は、その年の9月1日であったらしい。

BBC News | Sci/Tech | 'First Americans were Australian':http://news.bbc.co.uk/2/hi/sci/tech/430944.stm

その要点をかいつまむと以下のようである。コメントを項目の末に「注」として記している。
1:ブラジルで、先史時代の頭蓋骨が発見され、その形態はモンゴロイドではなく、むしろ、オーストラリアやメラネシアの形質的特徴に似ていた(注:オーストラリア・アボリジニとメラネシア人とは、形質的に異なることは、既知でこの両者を混同していることは信憑性を減少させる)。
2:これまでのところ、アメリカ大陸先住民は、陸橋が形成されていた11,000年前にシベリアから、アラスカへ、ベーリング海峡をわたったモンゴロイドであると考えられている(注:ベーリング陸橋を通過したのは、一度だけではなく、必ずしも陸続きにはならなかったとする説も存在する)。
3:ブラジルで発見された石器と炭素から、この地における人類の居住は50,000万年前にまでさかのぼるとわかった。この遺跡は「Serra Da Capivara」といい、ブラジル北東部にある。洞窟絵画から、最後の氷河期よりも前に絶滅したジャイアント・アルマジロの絵も描かれていた(注:このことは、アジア人の到着よりも古いことをさすと思われる)。
4:頭蓋骨から顔を復元し「Lucia」と名付けたマンチェスター大学のRichard Neaveによると、その形質的特徴は「すべての特徴は(モンゴロイドではなく)ネグロイドのものである」という。そして、それは、同時に現在のオーストラリアとメラネシアの先住民と一致するといい。彼らのその地への到達は60,000万年前にさかのぼる。
5:では、どのようにして、13,500キロも隔てた地に到達したのか。岩壁画の専門家のGraham Walshによると、オーストラリアのキンバリー地方の壁画から少なくとも、17,000年前には最も古い船がえがかれているという。しかし、50,000前にはほど遠い。考古学者によると、オーストラリア・ブラジル間といった長距離の遠洋航海は想像を絶する(注:少なくとも、現時点で記録されているオーストラリア・アボリジニの水上の乗り物は、マングローブの丸太を組み合わせた筏、ユーカリの木の皮を用いた木皮舟、メラネシアから漂着したと考えられる丸木舟である。また、長距離の遠洋航海を可能にする水上の乗り物は、丸木舟に舷側板をくみあわせたオセアニアの帆走カヌーが最も古く、太平洋への人類の拡散のタイミングからしても、おそらく、今から5,000年前以降のことである。メラネシアの人々の移動は、この帆走カヌーによっている。ただし、10,000万年前にさかのぼる考古学的な遺跡が、ニューギニアの東方のソロモン諸島あたりにしられていて、これらの島々への移動を可能にするような、水上の乗り物がWalshのいう10,000年以上前に存在したと思われる)。
6:とはいえ、偶発的な漂流によって、大陸間を移動できた事例が知られている(注:しかし、偶発的な漂流であれば、少数者しか移動できず、子孫を残すことのできる両性がともに漂着できる可能性はゼロではないにしても、非常に低いと考えることができる)。
7:頭骨の発掘の結果、その形質的特徴は、9,000年から6,000年までの間に、ネグロイドからモンゴロイドのそれに入れ替わっている。北からやってきたモンゴロイド系の人々が、原アメリカ人を消し去ったと思われる。ただ、南アメリカ南端の、ティエラデルフェゴ島の生存者の存在が、ネグロイドの形質の残存を証明している。かれらは、ヨーロッパとの接触以前のフェゴ人の生活は石器時代のそれであり、ネグロイドとモンゴロイドの複合的な頭蓋骨の形質的特徴を残している。
8:アメリカ人の形質特徴は以前に考えられていた以上に多様な形質を持っていると考えられる。

それで、最終的なコメントとして、以下のことを述べておきたい。
1:ブラジルの遺跡の年代測定や頭蓋骨復元の結果をうけいれる(いまのところ、あまり、これに関係する情報がないが、たとえば、ブラジル語のWikipedia:http://pt.wikipedia.org/wiki/Parque_Nacional_Serra_da_Capivaraをみると、確かに、50,000万年の文字が見えるが、残念ながら、ブラジル語を読む知識はない)としても、はたして、アボリジニが渡海したという説を立てる必要はないのではないかと思われる。ちょうど5−6万年前の氷河期の海退期にはアボリジニの祖先のオーストラリアへの渡海が行われており、同時に、ベーリング海峡の通過が起こらなかったという保証はない。むしろ、全米の5−6万年前の考古学調査がもっとおこなわれて、経由地における類似した形質を持つ古人類の存在が確認できればよいと思われる。
2:また、Hatena:Questionのshinok30さんを受け売りしておくが(http://q.hatena.ne.jp/1254232215#a953774)、遺伝学者の斎藤成也氏の研究(たとえば、http://sayer.lab.nig.ac.jp/~saitou/japanese/text/Kan-Taiheiyo.text)などの最近の人類形質に関する研究によると、従来の皮膚の色の違いに基づく人種概念は、むしろ、古典的ともいえるのであって、はたして、アボリジニ的(オーストラロイド:ネグロイド、コーカソイド、モンゴロイドいがいの古典的人類形質を持った人々をさす用語)という形質特徴の外延が四大人種を範囲とするかどうかというのは再検討する必要があるだろう。
3:もちろん、人類の技術の発達を考えて、5万年前にすでに獲得されていた(?)外洋航海術(および、造船術)がうしなわれたというシナリオを考えてみるのも興味深い。
4:ということで、私の持った結論は、ロマンをはらんだ仮説ではあるが、もう少し詰めてみないといけないのではないかという、ありきたりのものです(ちょっと、つまらないか)。

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